2013年11月20日

アメリカの「権力闘争」を反映する日中・日韓関係

■メディア論調の変化

ここ数日、日本のメディアは「親日」とも取れる内容の韓国大手紙の記事や、識者へのインタビューを報じている。朴政権の対日外交を批判し、「日本との関係改善を」とする内容である。日本のメディアは「意図的」とも思えるほど、長い間、韓国における親日の様子を日本国内で報じてこなかった。米国からの信任を取り付けたいためか、ここへ来て韓国との関係修復へ向けた変化が伺える。

これに先立ち、安倍政権が進めてきた「集団的自衛権」を可能にする憲法解釈の見直し、その先送りが決定されている。これは秘密保護法と並び、安倍政権、肝いりの政策である。しかし安倍政治の本丸と見られていた「改憲」も既にトーンダウンするなど、これら「断念」とも見られる足踏みの背景には、米国からの圧力があると見られている。本来、軍事同盟の強化は、米軍行政にとって好ましい政策であるにもかかわらず、そこに反対の力が働く理由には、米国政府による中国への配慮、または中国からの圧力があるとの見方が出ている。

日本の「集団的自衛権」の行使には、朝鮮半島における有事の際の「日本の武力行使」を抑制する取り決めがない。仮にあったとしても、一度戦争が始まれば「戦略」が優先され、「自衛」と称する武力行使が容認されることは確実である。他の地域であればまだしも、朝鮮半島またはその周辺における日本の武力行使は、韓国は元より、中国にとっても第一に阻止したいことであるに違いない。

■「米政府」と朴政権のコラボ、「米軍行政」と安倍政権のコンビ

集団的自衛権に向けた憲法解釈の見直し、その先送り決定以前に、韓国の使節団が緊急渡米している。日本の集団的自衛権、事実上の「交戦権」に待ったをかけることが目的であったとされている。日本から見る米国は、時に冷たく、時に日本重視の姿勢を見せる。外交辞令を抜きに深く見ると、日本重視を示すのは、米軍部とそれに近い共和党保守勢力が推進する政策が関わっていることが多い。逆に政治側、特に米国民主党政権は、米軍と日本の蜜月な関係に一定の危機感を抱いている。

世界の主要国でそうであるように、米国でも政治と行政には一定の距離、壁がある。どこの国においても「外務省」にあたる行政は、その国の政府、議会に比較的近い存在にあるだろうか。しかし強大な権力と傲慢な秘密主義を正当化できる軍行政は、各国の民主政治と一番遠い存在にあると言える。もちろん軍部が自国民の前で政権との距離を示すことなどはあり得ない。有事までは、全国民からの支持が必要だからだ。

韓国から渡米した使節団の外交は利いた。安倍氏が政治生命をかけている日本の「軍行政拡大」に圧力がかかった。朴氏の躍動的な政治が、日本の軍拡を一部抑えた格好となる。これに対し、日本政府はいつも通り「記者クラブを召集」しただろうか。以降、日本のメディアは、「朴政権は自国で対日関係への修復を求められている」と報じ始めている。これまで、「日本政府」に不満を表す韓国の世論を、日本政府、メディアは一貫して「反日民族の行動」と伝えてきた。しかし今、その報道姿勢に変化が見られる。「反日民族」との扱いを変えてはいないものの、以前から決して「少なくない」親日的な記事や韓国識者の声を、ここ数年で始めて報じたことになる。安倍政権は朴政権を揺さぶり、何としても世界における朴氏のプレゼンスを抑えたい構えだ。

■日本メディア、米国での安倍氏の受賞を「外国人で初」と強調

つい先日、米国で外国人としては初めてとなる、いささか「不名誉な賞」が安倍氏に与えられた。米国の軍権拡大を目指すハドソン研究所が、それに多大な貢献した者に与えるハーマン・カーン賞である。レーガノミクス時代に「強いアメリカ」政策の下、米軍を名実ともに世界一に押し上げたレーガン氏や、前ブッシュ大統領と共にイラク戦争を推進したチェイニー氏にも贈られている。

この軍行政と共和党保守派からなる同研究所の集会、その授賞式の場、安倍氏は「私を右翼軍国主義者と呼びたければ是非」と、参加者を喜ばせた。世界第三位の経済大国が、自国民の支持、不支持を問わず、米の軍行政支援に国費を投じ続けると約束したからだ。その時点で、日本の一部ニュースサイトも安倍氏のこのような発言を報じたが、ニュース記事に絞ってウェッブ検索してみると、それらは全て削除済み、Googleで「ゼロ結果」である。毎度のことながら、戦前から続く日本のメディア統制は完璧に近い。

■米国の「民主・共和代理闘争」を呈する日韓・日中関係

今の日韓、日中関係は、米国民主、共和両党の権力闘争を反映している。「民主vs共和」の構図は、極論を言えば、「民主社会主義vs軍政共和制」である。民主党の基本精神は本来、仏やデンマークといった「平等の精神」を重視する高福祉な社会主義国を目指しているのに対し、共和党はローマ帝国の様な強力な軍政共和制を目指している。中には中国の一党体制を羨む権力者すらいるかもしれない。この権力争いが東アジア、取り分け日本の軍行政を中心とする「代理闘争」の場となっている。ちょうど朝鮮戦争やベトナム戦争が、米露代理戦争と言われたように、日中・日韓関係が、唯一超大国の権力代理闘争の場となっている。

その身なりは民主的な日本であるが、その「国家権力・権益」は戦前から受け継がれている。日本の省庁が持つ既得権は、形を変えプレーヤーを変え、米国と共にその地位を維持してきた。米軍の後ろ盾を持つ現在の日本の軍権は極めて強固であり、それに全面的な支持を受ける安倍政権の誕生は、中韓にとって非常に思慮深いものとなっている。150年前、アジアのパワーバランスを崩壊させた当時の新興日本、そのトラウマが今も中韓に大きなインパクトを与え続けている。

日本の世界デビューに始まる米国史上最大の権益、「ニッポン」。この権益を解き放つことができれば、それは「普通の国」としての米国を望むオバマ氏の勝利であり、逆に安倍政権と共に日本の軍権拡大が進むのであれば、それは共和党保守派の勝利ということになろうか。いくつかのスキャンダルを抱えつつも、この民共権力闘争、それを増幅反映する東アジア情勢において、やはりオバマ氏が「和平の要」であることに変わりない。

■韓国、現実は親日が多数

日韓で共同開催した2002年のサッカーワールドカップ以降、韓国では親日が多数派である。日本政府、メディアが報ずる「反日」などは、もともと限られた一部のメンバーが政治利用したに過ぎない。確かに今も根強く残るのは、「日本政府の歴史見解」への反発であり、この韓国国民の主張が直接「日本国民」へ向けられることはない。韓国人が訪日すると、場合によってはむやみに差別を受けたり、実際に見られるように右派団体に罵声を浴びせられることがあるが、逆に日本人が韓国へ行き、個人的な差別を受けることなどまず考えられない。もともと日本国民個人に向けた批判などないのだから。日本政府は自国民を巻き込むことで、自らに向けられている批判をかわすことを長年、政策的に行っている。

週末、一部のメディアが報じたところによると、過去に日本が韓国人に対して行った「強制動員」を証明する資料が見つかったとのことである。事実であれば、これまで国が「強制動員への証拠はない」と主張してきたことへの説明を、世界から求められることになる。場合によっては、これまでどのような調査を行ったのかという「核心的」な部分を問われかねない。戦争犯罪への「嘘の上塗り」を目論んだのではないかと世界に問われれば、戦後日本が築き上げてきた世界での信頼を一夜にして失うことにもなりかねない。

同資料は既に7月の時点で見つかっていたとの報道である。今夏以降、朴氏が世界の国々で日本の歴史認識の在り方を訴え始めたこともうなずける。しかし氏の本心は、過去を行き来することのない強固な日韓関係の「構築」にある。それはこれまでのように、両国が関係構築を目指しながらも、過去の事実を巡り、事あるごとにそれまで積み上げたものを失うようではあってはならない。氏は、欧州のように「過去擁護」を法で禁ずることなくして、両国関係はいつも幻に終わることを悟っている。ただタイミングが悪いことに、安倍政権は欧州同様の「過去擁護禁止法や共通歴史教科書の義務教育化」を、国家存亡にかけて阻止するだろうことである。領土を巡る日中関係しかり、米国の「民共代理闘争」は、まだしばらく終わりそうにない。


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