2016年2月27日

不気味な沈黙を続ける中国― 米中関係の変化に揺れる世界の金融市場 ③


5.「通貨の番人」から「為替切下げ業」へ看板を掛替えた各国中銀 

バブル崩壊後の日銀に始まり、2008年の金融危機以降の米FRB、再度2013年以降の日銀、昨年以降の欧州中銀と、今のG7中銀は揃って「通貨切下げ競争」に邁進している。「通貨価値を守る」といった崇高な使命はもうない。

日米欧中銀は経済活性化に向け、「必要とされているところにマネーを行き渡らせる」との名目で利下げや通貨増発を行っている。その真意が何であれ、結果はみな揃って「自国通貨安」となっている。通貨安で業績低迷に苦しむ企業、生活消費財の高騰に苦しむ個人を横目に、各国中銀が、兵器商を含む輸出産業の業績を下支えする構図が明白である。

別のロイター記事(コラム/文末リンク)では、デフレ対策という名目で導入した日本のマイナス金利は、明らかに円価値引下げを意図したものとしている。さらに記事では、ダボス会議で中国に対して「資本規制」を勧めた日銀の黒田氏へ痛烈な批判が向けられている。資金の流出を心配すべきは日本も同様であることや、日銀の金融政策が出口のない状態に陥ってる可能性、そして一先進国の中銀総裁が「資本規制」を口にすることは「ある聖職者が信者へ悪魔との取引を勧めてているようなもの」などと批判している。

G7各国の中銀が政治色を強めるなか、中国はこの先どこまで協調姿勢を見せるかが注目される。IMFと共にSDR政策を重視していることからも、中国が協調路線をあきらめることはそうそうないと言えるが、歴史的に見ても、G7中銀の政治色の強まりは右傾化や軍政強化との連動性がある。このまま、G7各国の政治から安定と信頼が遠ざかるようであれば、中国は政策の方向転換を迫られるかも知れない。


6.不気味な沈黙を続ける中国、人民元の協調切下げで求めるものは何か

マーケットの混乱が続けば、当然中国へも火の粉が及ぶが、同時に、「株価」は中国の政治や経済においてG7のそれほど重要ではない。見方によっては、上海市場の暴落は自作自演かも知れないし、逆に逮捕者が出るほどの敵対的な力が働いていたにしても、現状は世界のマーケットの混乱の行く末を見極めたいかのように、今の中国からは何ら動く気配を感じられない。これまで何事にも積極的だった中国しては「不気味な沈黙」である。

過去の配信で、人民元SDR入りの判断が行われる際、中国の政治力を下表で示したところ4段階のうち最強であった。これは予想した通りの結果だった。

政治力・影響力
SDR入り
人民元の自由化
強大
-
やや低
-
-
-

さらに、中国を筆頭に長年BRICSなどが求めてきたIMF改革(G7以外の出資増)も受け入れられ、中国は第3の出資国(発言権を持つ国)として迎えらえた。日本のメディア報道では、「中国悲願のSDR入り」などの論調が目立ったが、その割には中国は何も失うことなく彼らが望む通りかそれ以上の結果となっている。

同様に、中国は人民元の協調切下げにおいても、今のマーケットの混乱を利用して難題を突き付ける可能性が高い。上述の通り、「株価経済」であるがゆえのG7は、混乱が続く今のマーケットに「劇薬療法」を望んでいる。そこを突いてくることも十分考えれる。

今月末の上海のG20経済会合や、9月に杭州で開催されるG20サミットで、仮に人民元の「協調切下げ」が実現するとすれば、それと引き換えに、中国はIMF内でのさらなる発言権拡大を求め、それと同に世界の主準備通貨を米ドルからSDRへと切り替えようとする案を推してくるかもしれない。場合によっては、IMF本拠地をワシントンから北京へ移転させると言う突飛な要求もあり得るだろうか。

上のことを引き出すために、中国は米FRBが死守して来た準備通貨としてのドルの地位(または一部大きなシェア)の獲得を突きつけたり、究極的には南沙諸島の完全なる中国化と、アジア覇権への認知を要求することも考えられる。どちらもほぼ実現性はないものの、G7マーケットの混乱の行く末次第では何が出てくるかわからない。

反対に、中国はこのどれも要求することなく、G7の株価経済へ「チキンレース」を挑むことも考えらる。自国の金融市場をある程度犠牲にしてでも、そのチキンレースで勝者となって現在の不和に打ち勝とうとする賭けにでることも考えられる。

なぜなら、世界の金融市場にさらなる「劇薬」を与えて株価経済が「時間」を獲得しても、その間に実経済が活性化する確証はなく、逆に失敗すれば世界の金融市場は結局崩壊に向かい、その時はこれまでに例を見ない規模の危機へと発展しかねない。これはでは中国にとっても得るものが少ないばかりか、いずれそれは世界大戦への下地をつくってしまいかねないからである。


7.中国版プラザ合意で「至上最強」のリスクオン

マーケットの活況が収益に直結する金融機関はもとより、それによって税収が左右される政府や、存続すら危ぶまれかねない国民年金、不動産価値、その他の資産等、G7では国の全てをマーケットに依存している。この先、下げ過ぎからマーケットの一時的な自律回復はあるにしても、人民元の協調切下げのような大胆な政策が執られなければ、最終的に「株価経済」は混乱を繰り返す運命にあるのは間違いない。

ただ、何らかの合意に至り、人民元の協調切下げに踏み切ることになれば、その憶測から世界のマーケットはこれまでにない「リスクオン」状態に向かうことが考えらえる。これまでの乱高下を一気に回復させ、各国の株価は新高値へと向かい、米ドルやコモディティ価格も歴史的な上昇を見せる。

しかし、裏を返せばこれが最後のチャンスである。中央銀行という最後のカードを使い切っているG7各国にとって「ラストショット」であり、もう効く薬はない。この最後の金融相場で「健全なトリクルダウン効果」を実現できず、またその間に新たなイノベーションを伴う実経済の拡大を逃せば、各国は「株価経済」の現実に直面することになる。

最終的に、中国がマーケットの混乱収束を目的に政策を共にすることは考え難い。何よりも、これまでの中国の「異質性」は、G7諸国が展開する「誰」が牛耳っているか分からない金融秩序に一定の距離を保つことに他ならない。よって長年、世界の金融秩序を独占してきたG7が、協調心とシェア心をもって改革を推進し、真にオープンな金融秩序を目指さない限り、今のマーケットの混乱を切り抜けることは難しそうである。


関連ページ:
http://www.mag2.com/p/news/140121

http://www.mag2.com/p/news/128436

http://archives.mag2.com/0001668598/20151022090909000.html

ロイター記事:
http://jp.reuters.com/article/global-markets-g-idJPKCN0VD0L2?sp=true

http://jp.reuters.com/article/column-china-capital-control-japan-idJPKCN0VE0GB?sp=true

http://jp.reuters.com/article/tk0642993-china-as-peacemaker-idJPTYE92S03K20130329?sp=true

http://jp.reuters.com/article/column-china-japan-pacifism-idJPKBN0FM0CO20140717?sp=true