2016年2月27日

米中協調を刺激する「勢力」― 米中関係の変化に揺れる世界の金融市場 ②


3.異例な事象の連続

昨年、年初に行われたAIIBの調印式において、出席したいくつかの国々が、式典の場で調印を「延期」するという異例の事態が起こった。またそれに遡り、中国が発足を予定していた国際金融取引システムCIPSが延期を余儀なくされている。新システムを設計していたIT技術者グループの飛行機事故が言われている。

昨年6月まで、勢いよく買い上げられてきた上海市場は突如暴落し、その2ヶ月後に人民元の新政策が発表され、直後に為替市場では「全通貨」に大異変が起こった。本来であれば、人民元が切り下がったことで、その対になる米ドルに資金が向かうはずであるが、その時点で米ドルは円、ユーロ、スイスフランなどに対して大幅に下落し、さらに昨年末に利上げをしたにもかかわらず今も下落が止まらない。また為替に留まらず、株式やコモディティ市場でも混乱が続き、G7各国では政治的にも揺れが目立ち始めている。

この新たな人民元政策に対して、IMFや欧州などが「透明性が増した」と歓迎を表明するなか、日米当局による中国批判が続いているのも異例である。新政策は「脱ドルペッグ」と、ドルを含む「通貨バスッケトへの連動」が基本となっていて、これが意味するものはドルの信認低下である。

中国やその他の新興国に限らず、サウジなども米債売りを始めていると言われているが、これを単に「自国通貨防衛のドル売り」と見るか「信認低下への警戒」と見るかは、ここ数年で明らかになる結果を見てみないとわからない。しかしながら、中国はドル債を売る一方で金の保有量を増やしている。この事実は大きな注目に値するが、私の知る限りこれは日本国内で報じられていない。

そして今年、日本国内でも不穏な動きがあった。「中国封じ込め」の要と言われていたTPPであるが、正式な調印を前に担当大臣がまさかの辞任に追い込まれている。日本では通常、政権が揺らぐ前段で必ずと言っていいほど閣僚の汚職や不祥事等に社会が揺れ、その後に大きな政治的変化が訪れている。

その他にも、長期間続いた米国のイランやキューバとの関係も、前段なしに歴史的な変化が訪れるなど様々な注目すべき変化が起こっている。


4.「勢力間」のせめぎ合いとセキュリティー・イシュー

「セキュリティ」面からも米中両国の姿勢変化が感じられる。

南シナ海へ、「航行の自由作戦」と称して軍艦を派遣している米軍であるが、人工島の着工時や工事期間中には言葉による形式的な非難に留めながら、完成した後になって一歩踏み込んだ行動に出ている。日中間の防空識別圏のときは、米軍は反射的に同空域へ軍用機を飛ばしたものの、それ以降は何ら目立った行動をとっていなかった。

米国はまた、最近になって台湾への武器輸出表明したり、後の選挙で同国の総統となることが確定する反中派の候補者を米国に招くなど、踏み込んだパフォーマンスを展開している。これらは、米国側の姿勢にある時点で変化が起こったと見ることができる。

また日本も、人工島着工当初は、「中国共産党は軍部を掌握できていない、内部分裂が起こり軍部が抵抗していることの表れだ」と報じ、半ば黙認する姿勢を取っていたが、その後、中国と領有権を争うフィリピンやベトナムへ軍事的に急接近を果たすなど、姿勢に変化がみられた。

このように、昨年は、様々な米中不和が表面化した一年であった。その裏には、米国内の勢力図に何らかの変化が起こっていることが考えられる。基本的に、オバマ政権は軍縮を目指してきたが、任期中、年を追うごとにその方向性が違って見えるようになった。政権の裏で「勢力」の入れ替わりがあった際には、通常それまでの他国との協調は白紙に戻され、「別の形」での協調を模索することになるものである。

日米の強力な兵器ロビーにとり、アジアは中東同様、失うことのできないドル箱市場である。北朝鮮の「脅威」がなければ、日米の兵器商はアジアで利を伸ばせないし、過去にはソ連、今は中国の脅威がなければ「アジア市場」は消失する。

沖縄問題しかり、どれだけ強力な勢力を外部から呼び込んでみても、地域に平和的な安定が訪れることはない。それは「自力外交」をもたない国に、周辺国が本音で向き合うことはないからである。

中国やロシアが、地域の安定を揺るがしているなどといった幻想は一日も早く捨て去るべきである。それは、兵器商を利するための増税を意味し、最終的に子や孫の世代に最も不幸な遺産を残す行為に他ならない。自らの力量の範囲内で現実的な「協調平和主義」へと向かう以外に、地域に安寧な未来が訪れることはないと見るべきである。