2016年1月24日

次世代準備通貨、金融秩序を巡る駆け引き― 「株価依存」の経済が失うもの ①


■株価依存のG7経済は危険な賭けをしている

約一年前のEUの量的緩和で、G7は名実ともに「株価中心」の経済政策となった。

各国は、緩和マネーが実経済の「必要なところへ向かう」との大義とは別に、数十パーセント単位の通貨下落を期待し、株価を始めとする金融市場を下支えるすることで、必ずしも実態を反映するわけではないマネーゲームに経済の牽引役を与えてしまった。

好調な実態経済、またはその将来性を見越しての株価上昇ではなく、株価そのものが上がることによって経済が良くなると言う「仮説」に基づいている。
 
米国では2008年、日本は90年代に続いて2013年に再開、欧州も2015年、金融市場に頼った出口の見えない「迷宮入り」を迎えた。

これを通貨安戦争?などと呼ぶかどうかは別にして、問題はG7各国がみな、数年単位でしかないその場しのぎの金融経済にうつつを抜かしていることにある。

一たび金融市場が混乱し、それが危機に発展すれば、経済への先行き不安が瞬時に襲ってくる。個人資産は激減し、年金給付すら不安視され、自宅を始めとする不動産価値も下落する。

G7+先進諸国民は、そんな脅威と隣り合わせに日々の生活を送っているのである。


■中国や途上国は米債を売っている

交易を営む国はもとより、世界のほとんどの国が米国債を保有している。日本も相当な額の米債、すなわち米国が発行するIOU=「借用証」を大量保有している。政府資産としてである。

昨年夏、中国の景気減速懸念を反映して人民元が切り下げられ、それに呼応する形で新興国通貨が売られた。

これらの国々は「通貨防衛」と称する自国通貨買戻し(=米ドル売り)を行っている。当然、各国はドルを米国債で保有しているので、ドル売り=米債を売っている。

焦点は、これがトレンド化することはないのかということである。

ある人は90年代末のアジア通貨危機に似てると言い、ある人は当時との違いを各国の外貨準備量で語っている。しかし現状では中国との関係、とりわけ人民元との関係のほうがより重要な意味を持っている。

仮に、途上国通貨の下落が既定路線と見なされれば、例によってG7の金融プレーヤー、ヘッジファンド等が売り仕掛けに出るだろうか。

しかしそうなれば、これらの通貨は「危機を乗り切る」という大義の下、ペッグもとを人民元へと切替えるかも知れない。


■小さな「通貨切下げ」と、そこから広がる大きな衝撃

昨年夏の人民元の切下げは、これまでの日米のそれとは全く異なる次元の効果をもたらすことが予想される。その小さな数値以上に、中国当局は後に世界に広がる大きな「波及効果」を狙った可能性がある。

中国は、既に世界最大の通商国および、貿易相手国の地位を取り戻している。ゆえに、人民元が下落すれば、他国通貨も呼応し下落することを当局は知っているはずである。

BRICSや途上国通貨へと波及することで、G7通貨には上昇圧力がかかる。既に「最終兵器」とされる中銀カードを切っているG7には次に打つ手がない。

さらに途上国通貨の下落は、「通貨防衛」の名目で米国債売りを伴う。ここに今回の、中国の真の狙いがあるのではないか。

昨年6月、中国株の下落から始まった世界の金融市場の一連の動きは、G7が切った中銀カードが「期限」を迎えていることを市場が悟り始めていると言える。

中国の米国債保有量の減少を、G7経済は警鐘と捉えるべきである。資本流出といった本質を隠す「標語」に惑わされるべきでない。