2011年7月31日

高品質×高価格=高付加価値?

iPhoneの躍進、任天堂の没落。ビジネス環境の変化は非常に激しい。景気動向だけでは読めないのが今世紀の世界市場。中国、インド等、経済新興国での販売増を頼りに、好業績を当て込んでいた任天堂の投資家達は、その読みを外すことになるのだろうか。まさに変化、環境に適応できない者は勝ち続けられないといったところである(関連記事: WSJ下記URL)。

日本の家電、その「安さ」から80年代までは欧米で順調であった。円が強くなり始めると質に対する価値が疑われ販売不振が顕著化。造船、建築物、半導体、エレクトロニクスは19902000年代、自動車は2000年代後半から2010年代に似た兆候が見られる。鉄道、原発も時間の問題だ。

日本には鉄道衝突安全基準がなく、そのままでは欧州で認められない。過去に英国で鉄道車両を受注した日立などは、欧米の鉄道の安全基準、車両構造を参考に、車両の再開発を余儀なくされた。原発は一旦事故が起これば、対応できる技術が日本企業では限られていることが福島の事故で明らかになった。実に事故直後には断った米仏からのオファーも、後に技術支援を要請するに至っている。当初は政府・マスコミの助けを借り、放射能汚染に怯える世論を封じ込めることができると考えたのだろうか。

確かに円安誘導で、輸出産業の挽回の機会は得られるかもしれないが、それでも経済新興国企業に勝ち続けるのは困難であろう。日本の家電メーカーなど、本来必要のない機能を付加し、高い価格設定で国内事業を保ってきた。しかしそんな商法は世界では通用しない。

政府、メディアは「高付加価値の日本製品が、安い韓国、中国製品にシェアを奪われ苦戦」などと、不可解な説を唱える。これを耳にした日本国民は、中国企業は人件費の安さを武器に、技術が低くとも世界で好業績を上げることができると考える。しかしビジネスの世界はそれほど単純ではない。それが可能なら、全世界の製造業はみな中国で生産すれば好業績を上げられることにある。もちろんそんなことはない。特に、製造行程でオートメーション化が進んでいる精密危機等製造業の分野についてはそのようなことはあり得ない。その典型例が太陽光発電技術である。

中国でも太陽光発電パネルの製造において、日本と同様かそれ以上にオートメーション化が進んでいる。製造コストに与える人件費の差などほぼ皆無といっていい。近年、中国企業がこの分野で世界を席巻し始めている理由は、それは最先端の技術と技術革新に他ならない。現に中国最大手のSuntechは、世界中の企業がなし得なかった高効率の発電パネルを革新的技術を用いて大量生産することに成功している。技術者でもある創業者は、安い人件費ではなく、技術革新によってこれを擁立しているのである。日本製品についても、「価格」に対して高品質、高付加価値なのであれば売れないはずがない。現に日本人は欧州の自動車やバッグ、アクセサリーなどのブランド商品を、本国価格の「二倍」を支払ってでも買っているではないか。

戦後の恵まれた時代と違い、今の日本には競争相手が存在する。隣国は後発、共産主義といった甘い環境はもうない。日本は自らのインキュベーター時代に、次世代を見据えた戦略を持たなかった。永遠に、日本以外に新興する国はないかのような政治を行ってきた。権力闘争に明け暮れるがあまり、周辺国の変化、本当の敵を見てこなかった。昨今、チャイナマネーが日本国債、日本株の買占めを急速に進めている。これを傍観する危機感のない日本の政治。一定の買占め後、中国要人の一言で日本市場に動揺が走ることはないのだろうか。「入植現代版」はこのようにして行われるのかも知れない。


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