2015年6月21日

「金・銀信望投資家」が望むゴールドスタンダード回帰― SDR入りする人民元 2/3


OPECからOGECへ?

リーマンショック以降、「金本位制回帰」が以前にも増して言われるようになった。しかし資源を巡って殺戮を繰り返す人類が、今さら「金争奪戦」に回帰するだろうか。

仮にそうなれば、世界の「富裕国マップ」に大きな変更が加わる。保有量ダントツの米国は、公表値が事実なら、他国が少なくとも半世紀は追いつくことのできない富を既に手にしていることになる。中国へも追い風となり、膨大な埋蔵量を誇る豪州や南ア、ペルー、モンゴル、北朝鮮などが富国入りを果たすだろうか。

これまで大まかなモノの値段は、石油の取引値によって推移してきた。人類が火を使って以降、「熱」、すなわちエネルギー利用が人間社会の発展に深く関与し、その利便性を飛躍的に高めた石油がモノの価格の「起点」になっている。

経済学者は「政策金利」が物価をコントロールすると考えるらしいが、私が思うにそれは微調整の範囲であって、全てのモノはエネルギー利用によって生産され、それは行き着くところ、原油価格によって左右される。

事実、日本の金利政策は長年結果を出せず、世界の中銀も通貨の大量発行(=価値の希薄化)によって、自国通貨の大幅な切下げが進行しているにもかかわらず、各国はデフレを案じている。

石油価格はこれまで、主に米英OPEC等の「話合い」によってその枠組み決められ、米ドルによって取引されてきた。しかし金本位制の下では、石油も金の裏付けによって取引されるのだから、OPECの政治力は相対的に下がる一方、金保有国の発言力が拡大、「OGEC」が創設され、世界に大きな影響力を持つことになる。


■人類の繁栄と歴史をドブに捨てる行為

モノや技術の価値が金の裏付けをもって取引されるのだから、世界で金の流通がひっ迫するかもしれない。本当にゴールドスタンダードに回帰すれば、最終的には「代替不能」な資源を求めて奪い合いが起こることは間違いない。

現代に続く紙幣は、千年以上も前の中国で始まったとされる。そして18世紀に入り、欧州のとあるファミリーが「紙幣業」を始め、大成功を収めた。彼らは戦費捻出に苦しむ国家へ「紙幣貸し」を行うにまで成長したという。

そのファミリーメンバーは後に、欧州中銀の通貨発行権を握りるに至り、さらに日米の銀行制度にも大きな影響力を有した。日本初の国立銀行券、十圓券は、当時の10ドル札とデザインが全く同じである。米造幣局が日本国紙幣を製造していた事実を紐解けば、日本の開国、明治維新の真相が見えてくる。

因みに、近代化に向け日本が採用した「圓」は、現在の中国簡体字の「元」であり、韓国通貨のウォンでもある。ここにも、日本人の世界観、歴史観から抜け落ちたオリジナルのアジア史が垣間見ることができる。

紙幣は「信用」を創造し、信用が経済を拡大させ、付利を基礎とする資本主義へと発展した。しかしこれを「金本位」に戻すことは逆回転を意味する。金の裏付けを持たない「信用」は破壊され、経済が収縮して資金が枯渇し、人類の発展に大きなブレーキがかかる。

しかし、このような連鎖は始まらない。だださえ石油利権を巡る紛争が絶えないのに、そこに金まで加えて争奪戦を繰り広げるような過去の過ちを、現代の指導者と市民がそっくりそのまま繰り返すはずもない。そんなことをすれば、これまでの人類の歴史と繁栄をドブに捨てる行為に等しい。


■「通貨価値」を決めるもの

各国通貨は、政治、産業、文化に裏付けられた「国家の信認」に基づいて、その対外価値が定められるべきである。だからこそ、世界の準備通貨には地上で最も高い流動性と民主性を備えていなくてはならない。言わば「民主性ゼロ」の現行米ドルは、今では準備通貨としての資質を欠いている。

これからは、「正しい信用」を破壊することなく通貨を進化させなくてはならない。それは民主的で安定性を備えた通貨であるべきである。現状では、IMFSDRがこれに一番近い。

SDRは現行のG4通貨に加え、人民元や、中国主張のG20通貨までの拡大がより理にかなった選択となる。ワンランク上の安定性と信頼性を得るためにも、多通貨構成が理想的である。

近未来、SDRが通貨となり、取引可能な債権が発効されれば、これに代わる安全資産は世界に存在しない。何と言っても「公表された基準」をもって、その構成通貨を5年毎に取捨選択するのだから、一定水準の信頼と安定、そして今より遥かに高度な透明性が担保される。


■問題は現状維持、反調和、反平等主義を歩む「独占主義者」

現物バックのいらない現在の紙幣は、「国家最大の権益・権威」である。当然、各国政府がこれをタダで手放すはずもない。よって、本位貨幣はなくならない。もちろん、その最大権威に挑戦するビットコインも世界制覇はない。

これまでIMFや世銀、アジア開発銀などは、中国をはじめとするBRICS諸国による協業、協調体制への申し出を退けてきた。米国勢は、IMF会議で拒否権を行使してまで協調を拒んできた。これがAIIBBRICS開発銀、中国独自の国際決済システムCIPSの発足を促すに至った。

しかし当然、これら既存の枠組み中にも対立がある。「調和こそが安定経済、和平の礎」と考える勢力が存在する。世界の準備通貨に民主性を与え、多国間で管理する時代に入っていると信じるグループがある。中国のカムバックがこれらの勢力の後ろ盾となり、今その基盤を固めつつあるかも知れない。

大きな力が何かを許す、許さないなどと言う単純な構造はない。力のせめぎ合いの中で、ギリギリの状態でバランスを保っている。「米中対立」などと言う、今どきハリウッド映画の題材にもならないフレーズに日本社会はあっさりと踊らされてしまう。ここは日本人の世界観が試されるところである。

IMF主導が望ましいとまで言わないが、今からそれなりの信認が得られる運営組織を再構築するには相当の時間を要する。その間にもまた、金融システムが偏った方向へと進み続け、次はどのような大戦が起こるとも限らない。よってAIIBや新シルクロードの完成を待たずして、人類はSDRの「準備通貨化」を目指すべきである。

最後にSDRの発行は、是非とも「電子マネー」にして欲しい。今どき誰かの顔が印刷された紙幣など時代遅れもはなはだしい。そんなものは、政治家や裏社会の人間に便宜を供与するだけなのだから。


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