2013年7月21日

加工貿易・通商立国のジレンマ

■「日米ショック」のインパクト

中国が「日米国債を売却」、とほのめかすだけでサブプライム危機を上回る混乱が起こり得る。

日本の橋本元首相が、「米国債売却への誘惑」を語っただけでドルが急落した。日米関係を考えればそんなことは有り得なかったにもかかわらずである。当時これは、米国への脅威と取られ、氏は翌年退陣に追いやれている。

日本政府、マスコミは好んで「中国ショック」というフレーズを使う。日本では「ウケ」がいいらしい。しかしこのように掻き立てれば、「危機対応の為」と、中国政府が日米債売却をほのめかすことに正当性を与える。実際に売却するかどうかは別として、世界から批判を受けることなくこの「カード」をチラつかせることができる。これは外交上の大きな優位性となる。そのお膳立てをわざわざ日本側で行う必要もない。

日米債売りが実際に言われ始めれば、市場は大混乱に陥りかねない。投資家は同国債を売り急ぎ、ヘッジファンドは空売り攻勢をかける。金利が急騰して通貨も売られ、ハイパーインフレに陥りかねない。世界最大級の米国債権者である日本は、実際に自国債が売られなくとも、中国が米国債の売却をほのめかすだけでこれは起こる。

■中国による「世界買い」加速

「日米型の資本主義」において、各業界の影響力は強力である。多くの場合、その影響力が国家の方向性を決定付けていると言っても過言ではない。しかし中国の場合、極論を言えば政府の方針一つで、業界の在り方に変化を起こすこともできる。日米債ショックと時を同じくして、世界の投資家の注目を集める経済政策が中国政府から発せられれば、世界のマネーは一気に同国へと向かう。人民元は急騰し、強い元を利用した中国による「世界買い」が加速する。

過去に世界から模倣国家と見下されながらも、地味道に技術を習得し、その改良・改善によって成果を上げてきた日本とは対照的に、通商・商業国としての基盤を持つ中国は、世界最大かつ長い歴史の商業ネットワークを有す。華僑として知られるこの商業基盤を通じ、中華圏はもとより、現在では世界市場の隅々にまでその資本を浸透させている。金融時代はまさに「資本ビジネス」の時代。中国はこれを最大限利用している。

現時点で、中国による「日米債外交」の脅威を言う人はあまり多くないと思う。しかし日本政府・マスコミが、中国への対抗心を抑え切れず、ナショナリズムに駆られる極右勢力を放置し続ければ、中国はどこかの時点で日本との関係に見切りを付けざるを得なくなる。すなわち「日米債ショック」の脅威が増すことになる。

わずか半年で30%の価値を落とした自国通貨「円」を、政府・マスコミは未だ「安全資産」と訴えている。この表現に異を唱える者すらいない日本社会においては、「日米債ショック」への準備はほぼ皆無と言える。

■「島国根性」による隣国関係軽視

下の記事内に「和則両利・闘則両害」と言う言葉が出てくる。英・EU間関係を見ても同様、「島国」にはこれを基礎理念とする隣国政策が未だ根付いていない。

過去において、市民レベルの交流もなく、交通機関も発達していない時代はそれでも良かった。でも今の日本が、しかも周辺国より先進の立場にありながら、口では言いながらも未だ「和則両利」の基礎理念を持たないことは大問題である。そのことは人種差別を禁止する法律さえ不整備の「遅れ・異質さ」にも表れている。

日本は自他共に認める加工貿易・通商立国。その起源は清国との貿易に始まる。アジア最貧国と言われた当時の日本が、最初に手にした富は清国との貿易による。世界の通商が清国を中心に営まれた時代、その上海港の一角で、日本は国際デビューを果たした。その後の近代化、現在の日本経済の発展につながる原点である。

戦後、日本は朝鮮戦争で膨大な外貨を稼ぎ、後の冷戦にも支えられ、欧米に寄り添う形で急成長を果たす。この間、「日本製=安物コピー商品」というレッテルを貼られるも、そのような観念がなくなっていった背景には、旺盛な需要を提供した80年代後半以降の中国との交易がある。

欧米では安物扱いされた日本製品を、中国は好んで買ってくれた。欧米市場では売れなかった日本製の日用品を、中国は大量に買ってくれた。さらにバブル経済崩壊後の日本経済が「底抜け」を防げたのも、やはり中国に支えられた部分が非常に大きい。日本政府やメディアによる強気報道とは裏腹に、韓国、台湾はもとより、欧米企業等、中国市場でシェアを広げたがっている企業は無数に存在する。日本が中国市場を去ったところで、同国で何かが大きく変わるものでもない。

日本は自らの「生い立ち」を遠避けるあまり、「和則両利・闘則両害」と言う重要な理念を持つ事が出来ないでいる。このような体制が今の日本社会、日本国民から「安らぎ」を奪っている。今後とも「加工貿易・通商国」としての道を選択するのであれば、「和則両利・闘則両害」は島国の日本にとっても欠かせない理念となる。周辺国との対立を深めながらの「通商ビジネス」には、自ずと限界が訪れるものである。


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