2014年1月14日

幻の「永世中立国」となった過去の小国

■「知恵のある世代?」が出す回答

日本政府・メディアの絶えない中国脅威論。米国での石原氏尖閣購入発言以降、「今そこにある脅威」として扱われ、日本社会で広く取り沙汰されるようになった。政治的、平和的な解決を模索する以前に、大軍拡に正当性を持たせる訴えが目立つようになった。

過去の両国トップ会談、「知恵のある世代に任せる」に対し、前野田政権が出した答えは石原氏と共に米国を後ろ盾にした国有化であり、現安倍政権が出す答えは武力増強、力による解決を示唆している。当時、会談にあたった日本の首相、田中、福田両氏は、このような現政権を「知恵のある世代」と呼んだのだろうか。昭和、平成両天皇陛下はどうお考えか。

同トップ会談の結果である国交樹立、その後の市場開放で、日本企業は中国で膨大な利益を上げるに至っている。バブル崩壊後の日本経済の下支えも、中国におけるビジネスなしに語ることはできない。しかし今その原点が問われかねない方向へと進んでいる。中国が上述のような日本の「一方的な解決」を受容するはずもなく、いずれ何らかの対抗策がとられるだろうことは容易に想像がつく。

■米軍産研究所が絶賛する安倍政権の軍拡政策

昨年、軍権拡大を使命とする米ハドソン研究所が、それに多大な貢献した者に与えるハーマン・カーン賞を安部氏に贈っている。レーガノミクス時代、「強いアメリカ政策」の下、米軍を名実ともに世界一に押し上げたレーガン氏や、前ブッシュ大統領と共にイラク戦争を推進したチェイニー氏と同様に。

この軍行政と共和党保守派からなる同研究所の集会、その授賞式の場、安倍氏は「私を右翼の軍国主義者と呼びたければ是非」と言って参加者を喜ばせた。世界第三位の経済大国のトップが、自国民の支持、不支持を問わず、米の軍行政支援に国費を投じ続けると約束したからだ。同時に日本においても、安倍政権による事実上の武器輸出解禁で、三菱重工等の軍産業が稼ぎを膨らませる方向にある。しかしこの軍拡への膨大な国民負担が大きく取り上げられることはない。

■現在の中国が「先進国の常識JB Press」に武力もって挑むことはない

中国はその長い歴史の中で、武力による地域のパワーバランス変更は成立しないことを知っている。それは近代、若き日の日本が膨大な軍事費をかけて武力に訴え、人類史上最大とも言える膨大な犠牲を払って証明した通りでもある。

中国は過去2千年以上もの間、隣国を武力で征服しようとしたり、英国、ドイツ、日本、米国のような規模で自国の統治システムを広めようとはしてこなかった(ロイター

天皇も決して訪れることのない靖国神社への現役首相による参拝。同じく現役副総理によるナチスヒトラーを手本とする改憲論。現役与党幹事長、元防衛大臣によるデモをテロと称す思考等、個人の権利を軽視する独裁思想が現政権には漂う

日本国内で加熱する中国脅威論はやはり「人工的」な感が残る。大国に寄り添い、彼らのゲームに身を投じ、国民の命を軽視する歪んだ野心の持ち主が没頭するゲームに映る

■幻に消えた「中立国」

戦後日本は世界お墨付きの平和憲法を得た。和平のシンボル、永世中立国となることが内外に容認された。中立国として改めて世界と向き合い、それまで日本国民の知るところになかった明治以前の世界の営みを再認識し、和平象徴国としての新しい道を歩み出すはずであった。

しかし実際の戦後は、既得権およびその権力を維持したい旧勢力と、世界を前に、占領先の民主化を急ぐ米国との密談によって戦後日本の土台固めが拙速に行われた。現在に続く日本の政治経済はこの上に築かれている。以降、60年余りでしかない日本の民主化であるが、未だ日本の主権が及ばない領土、領空が広範囲に渡ることを見ても、軍事面での米国支配、日本への「監視」は終わっていないと言える。「米国の傘」とは言うものの、実態は軍事利権の温床でもある

150年前、当時の「小国」が膨大な予算を費やして武装し、その武力で地域のパワーバランスを変更した。壮大な野心を抱くも、それが時代遅れのやり方であったことで、世界に受け入れられずに暴発、大国を相手に戦争を挑み国家存亡の危機に陥った。その国が自国の多大な犠牲を払って得たものは大国に寄り添う繁栄などではない。ましてや、大国の覇権主義に付き合い、世界中で起こす戦争を支持支援し、利権獲得の場を分け与えられてもらう国家になり下がることでもなかったはずである。

この先、米国の傘がいつまでも開いているとは限らない。それどころかその傘は徐々に閉じられようとしている。米国が建国来の中国との「より」を戻そうとする中、後から加わった日本がそれに不満を募らせる姿が見え隠れする。米の傘の下で、外へ向けて石を投げる日本の姿は決して「クール」に映らないのだが。


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