2010年12月12日

よりリスキーなのはカジノか日本市場か

日本企業経営陣の目線は未だ高いところにある。いわゆる「上から目線」である。低迷する株式市場、ひとえに「政府の政策が悪いから」だけではない。

最近、ようやく落ち着きを取り戻しつつある株式場の「増資ムード」。しかしそのあり方は異常である。他国のマーケットでも似たケースがあるにしても、日本市場の増資発表後による空売り攻勢や株価暴落などは「市場」の域を超えている。カジノ以上にリスキーだ。外から見れば、投資家らはその「リスクコスト」を勘案せずに投資に至れない。これでは日本市場に外資を取り込めるわけもない。こうしたことが、日本の政治行政の在り方以上に、市場全体に冷や水を浴びせている。

現在超低金利で行える社債発行や銀行借入以前に、株式市場全体が増資ムードに浸っている。事業買収等、事後に何が出てくるかを見極め切れない事案については増資に頼ったほうが賢明かもしれない。何よりも事業の拡大に直結するのだから、このような増資は理にかなっている。

しかしながらそうでないものについては、現在のような低利な状況においては、金融機関から借り入れたほうが遥かに効率的である。経営上の様々な困難を呼び込むことにつながる増資は極力避けるべきである。

増資の際に幹事に支払う手数料は元より、将来に渡って支払い続ける株主への配当や、増えた株主に対する法定案内等のコストなどは永遠に社の負担、すなわち既存株主の負担となる。これは投資家を敬遠させ、市場全体がそのようなムードに包まれると、外資としてはより投資家目線にいる企業が多い市場、あるいは将来性の高い市場に流れざるを得ない。

「一にも二にも増資」、こうした日本市場の古い体質を買えてゆくことも、日本市場を育て上げる上で大変重要である。バブル期以降、それに失敗した結果が、現在の日本市場の低迷を招いている。

技術、経済力の低下だけでなく、「市場」という経済の要を日本はいずれ失うことになると危惧するところである。アジア諸国の新興をうまく活用することは元より、ライバル視する意味においても、「フェアな市場づくり」を上場企業経営者はより真剣に受け止めるべきである。もちろんそれには法整備が先行しなくてはならない。

既得権に屈する政治、犠牲となる国民生活

100年に一度」と言われた2年前の金融危機。前世紀初頭の大恐慌同様、次の大危機が訪れるまで人々の記憶に残り、折に触れては話題になることに違いない。

日本の景気に関してはどうしようもし難い歯がゆさがある。相対的な日本の技術力や経済力が急速に低下しているにもかかわらず、このことに対する現実的な国策がない。バブル・シンドロームとでも言えばいいだろうか、政権は「自分達以外にする者はいない!」という現実を直視できない。


自らの目で社会を見つめ、自らの肌で世情を感じ、自らの足で人生を歩むという実体験が、現在の「政治層」には乏しい。少なくとも国民のそれとは大きな隔たりがある。この八方塞がりの状態が、今後どのようなプロセスを経て健全化してゆくのか、雲を掴むような状況ではないか。


先進諸国から見た日本は、支配層の既得権と不透明な社会の中で、国民生活が犠牲になっているように映る。この部分を先進国並みに改善できない限り、いかなる政策を語ろうとも国民生活は向上し得ない。

2010年12月8日

投資家保護 ― 改革されるべきは上場企業経営陣 2

まだ記憶に新しい2009年の年越し。わずか数ヶ月前の金融市場の混乱を理由に、住み込みの期間工らは極短期間の予告だけで住居を追われ、凍える冬空に放り出された。トヨタやキャノンなど、日本を代表する企業らが一斉に契約を打ち切ったのである。

「トヨタ銀行」とも揶揄されるほど、莫大な現金資産を留保し続ける同社。その極々一部を放出してでも社を支えた労働者を保護しようとはしなかった。

リーマンショックに金融危機、その直後のことである。株主に丁寧な説明することできっと「人助け」に対する寛大な理解を得られたに違いない。このとき同社は、同期の株主に対する利益還元をも減らしている。

この年の会期末(20093月期)、トヨタ自動車は実に現預金2.4兆円、有価証券5千億、流動資産全体で11.3兆円を計上している。これは前期から現預金が1兆円近く増加し、それを社内に留保してのことである。

その後も同社を筆頭に経済界は政治に圧力をかけ、業界への補助金や為替操作など、巨額の国費支出を勝ち取っている。「利益は社のものだが、労働者保護は国(国民)の責任」という姿勢を示す形となった。

意図的に操作されたデータや事実隠蔽。戦前の軍政府、財閥との関係、それによって犠牲となる国民生活。形こそ異なるものの、残念ながら先進国基準においては民主的に映らないのが日本市場である。

政界、経済界、メディア界に既得権を有するメンバーらに牛耳られ、投資家保護は二の次、三の次となっている。同じく投資家が保護されていないのなら、成長著しい新興国に投資する方がより「安全」という印象を与えてしまうところでもある。

【トヨタ自動車決算資料より】

20083月期

現金資産1.6兆円、有価証券54百億、全流動資産合計12兆円

20093月期

現金資産2.4兆円、有価証券5千億、全流動資産合計11.3兆円

20103月期

現金資産1.8兆円、有価証券1.8兆円、全流動資産合計13兆円

― 自己の他ブログサイトより転記 ―

注: 本ブログは自己記録用のため、基本的にコメントへの返信はいたしておりません。お読み頂きありがとうございます。

投資家保護 ― 改革されるべきは上場企業経営陣 1

「株式会社」の最大使命は株主への利益還元。ゆえにこれへの達成の度合いが、投資家にとっての企業価値を計る尺度となる。

「利益は社のものである」だとか、「経営者のものである」などと考えることがあれば、それは立派な背任行為。つまり犯罪である。しかしながら日本の上場企業経営陣にはその認識に欠けるメンバーが多いように見えてしまう。日本が「金融発展途上国」の汚名を奪回するには、「上場企業経営者の意識改革」が最優先事項となる。

これまで日本株が非常に低位にあった理由、それは日本国の将来が危ぶまれているからだけであろうか。日本企業はアジアという大変有望な市場の中であり、同地域内で一早く工業化が進んだ国として、本来、非常に有利な立場と恵まれた環境にある。

しかも世界中の金融機関が、アジア市場の成長に最大の期待を寄せている時代でもある。この中にある日本が外の目に魅力的に映らないはずがない。政府が実力不足であったとしても、日本企業の評価がこれほどまで低位にあることには、経済的合理性がない。ましてや日本政府はきのう今日、その実力を疑われ始めたわけでもない。

日本株低迷の真の理由、それは日本企業固有の問題でもある、投資家を軽視する経営陣の姿勢と、それらを戒める法整備の遅れにあるのではないだろうか。

親子上場による利益相反、無秩序な増資。法整備の遅れをいいことに、日本の上場企業は投資家保護に消極的である。先進国の基準で見れば犯罪を疑われかねないレベルにある。またこうしたことはヘッジファンド等らの「合法的」な市場アビュースをも可能にしてしまう。

世界中どこの誰であれ、投資先経営陣の株主への扱いを第一に問うものである。現在のように経済情勢が不安になれば、それはより一層の厳格化を伴う。しかし日本の投資家は必ずしもそれを重視していないように見える。