2011年11月7日

またも爆弾投下― 巨大グローバル市場へ挑む日本政府

<巨大利権化する外為特会>  

このままでは長くは続かない日本の財政事情。その上での巨額国費を用いた市場介入。日本国民は今も輸出企業最優先の政策を本当に望んでいるのでしょうか。ここへ来て諸外国も日本政府の為替操作に対する批判を強めているようです(URL)。

またこのような為替操作は市場に混乱を誘うばかりか、政府、銀行の関係者のうちで本当にインサイダー取引などはないのかという疑問も残ります。よく言われるように、外為特会も巨大な利権の塊と化しています。これが現状のまま存続する限り、日本政府は国民の意を反映する自由な為替政策が取れるはずもありません。今回は7兆円超の規模とされていますが、これだけの国費が別の形で戦略的に利用されれば、国内の貧困を減らす程の政策が打てるはずです。

今回のG20においては、「日本の主張が受け入られた」と日本政府関係者らは自賛しています。日本が主張し採択された文言とは「為替レートの過度な変動、無秩序な動きは経済および金融の安定に悪影響を与えることを再確認する」です。これを耳にして何か特別なものを感じる人がいるでしょうか。「ああ、わが国政府はよくやった」と思う国民がいるでしょうか。経済の常識、否定されることのない文言を予め用意し、それを「主張して認められた」としているに過ぎません。どこかの独裁国、国民向け「裸の王様ショー」を見ているようです。

<政策の稚拙さ>  

正直なところ、日本の政治には稚拙さが浮き立ちます。為替政策においても、ギリギリまで我慢して一気に爆発する。わずか数秒間で数パーセントもの価格を操作します。一国の政府が世界の金融市場に混乱を与えるのです。本来であれば数年先の世界情勢、グローバル市場を予測し、先を見越した戦略を立て、その戦略に見合うよう為替をコントロールしようとするのが一国の為替政策というものではないでしょうか。

各国が市場との対話を重要視するのは、「国はこのような考え、方針を持っている」ということを市場に伝えることで、早まった投機的な動きを抑制することを目指しているからに他なりません。そんな中、日本だけが市場との対話ができないばかりか、首相らが日々口先で市場を挑発し、最終的には「政策」であるかの如く市場へ爆弾を投下してしまいます。

G20カンヌ、李大統領の後方に立つ野田首相>  

韓国や中国、ブラジルなどの新興国、準新興国も外貨買いを行っています。しかし日本との大きな差は、自らの国家構造を緻密に分析し、自国の強み、弱みに叶う戦略を立て、それに沿った外貨買い公表の上、恒常的に行っているということです。極力市場にインパクトを与えぬ配慮の上で為替をコントロールしようとしています。またそのようなやり方が自ずとバランスの良い(自国に有利でありながら諸外国から強い避難を受けない)水準を決定していると言えます。

日本はそのような能力を発揮できず、逆にそのような戦略を有する国々をメディアは「したたか者」呼ばわりします。このようなメディアの言葉を諸外国の国民が聞けば、負け犬の遠吠えにしか聞こえないことでしょう。今回のG20の映像を見ても、韓国李大統領は最前列右端、野田首相はその後ろに「立ち位置」が与えられています。恐らくこれを取り上げるメディア(特に日本では)ないと思いますが、これが現在の世界の目、評価なのです。

国家規模では日本に到底及ばない韓国やシンガポールですが、歩んでいる道は決して日本の後ろではありません。過去のある時点において分岐し、既に別の道を歩んでいるのだと感じるところです。文化、伝統、民主教育に最重点を置いてこなかった自称「成熟国」日本。経済ばかりを強調してきた政策が、強い拝金主義を育ててしまいました。本当の成熟国への道は自ら閉ざしてしまっているという気がしてなりません。

<グローバル経済化した21世紀においても市場に戦いを挑む日本政府>  

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急速に進んだ現在のグローバル経済において、直接的な為替操作などは既に時代遅れの政策であると言えます。今や市場は民間に属し、ウェッブの世界同様、一つの巨大な独自世界を形成しています。

この巨額マネーの世界において、一国の「一時的な対策」がそのコストに見合う効果が得られる時代はもはや過去のものとなっています。今や先進国は利下げや量的緩和などの上に、新たな間接的コントロールが必要です。それらを試行錯誤することでしか、今後は効果ある為替政策を取ることはできないでしょう。

私は円安誘導論者ではありませんが、仮に彼らの肩を持つのなら、外為特会の利権を排除し、その資金を新たな金融緩和の資金に振り向けるべきであると主張する経済学者を支持します。これからの時代、米国債を買い支えるだけの日本式の為替政策は、何ら国民の利するものにならないと考えるからです。

最近よく耳にするように、「取引レート」は実際の通貨価値を表すものではありません。為替政策とは実質実効為替レートを用いて行うべきものであり、それによれば現在は「円高」の状態にはないとされています。そのような環境下で行われる日本政府の市場操作が、先進諸国らの批判の所以であると言えます。

学術的論拠を見せず、現在の相場を「一方的、投機的な円高」であると規定する彼らのやり方は、輸出企業に対する事実上の補助金政策であると言えます。日本政府、メディアがさほど大きな意味を持たない取引レートを取り上げるのは、やはり国民向けのプロパガンダではないでしょうか。

関連ページ: 加工貿易立国の行方