2011年8月21日

加工貿易立国の行方

日本は「加工貿易立国」であると小学校で習った。現代的に言えば「世界の工場」となる。Made-in-Japanが世界のおもちゃ市場を席巻したのはわずか数十年前。バービィドールの模造品を製造するリカちゃん人形の国、レゴの模造品を製造するダイヤブロックの国が、現在では世界の医療機器まで製造している。

まさに日本の発展は世界の奇跡を見るようだ。もちろんこの奇跡はそれより何倍も大きな以前の奇跡、すなわち開国時代の発展が一つの基礎となっている。さらに遡り、巨大地震、津波、火山、台風など、日本は世界有数の災害大国でありながら、木造建築五階建ての塔を千年以上ももたせる技術を持っていた。奇跡と言うよりは、この蓄積の上に培われた当然とも言える実力である。

この実力を世界に見せつけてきた日本が、今なぜ、長期間に渡り低成長に悩み、経済後発国の成長力、技術力に脅かされることに甘んずるのか。これはまさにトップの影響力、政治力の欠如に他ならない。当然、米国依存主義から抜け出せない、抜け出そうとしない政治のあり方も問題である。

政治側は先ずは「円高が悪い」と言う。そしてその対策に「数十兆円」という膨大な国費を注ぎ込んでいる(失っている)。市場を操作しなくてはならないほど、円安でなくてはならないのであれば、それは同時に円安こそが日本の奇跡を創造したということになってしまう。今もなお政府、メディアは「日本人にはハンディとしての円安が必要だ」と言うのであれば、両者が国民の前で誇る日本の先進性はどこへ行くのか。

欧州諸国の発展は通貨安がその最大の理由ではない。彼らは自国通貨高を積極的に利用して、成長に向けた投資を怠ることなく行ってきている。言うまでもなく、通貨高を利用した資源権益の確保や、歴代新興国(日本、韓国、台湾等)、さらに現在の経済新興国にいたる世界各国で足場を固め、通貨高を利用した100年先までの国家成長戦略を描いている。

この先の日本は、世界から尊敬される成熟した民主国を目指すのか、それとも現在の中国のように、「加工貿易後発国」としての立場を貫くのか。政府は世界における日本のポジション、方向性に対し、一貫性のある説明を行う必要がある。また我々も「円高悪」に耳を傾ける以前に、国が権益にしがみつく体質から抜け出す事を訴え続ける必要がある。